堀川未来夢がその名の通りの初タイトル
未来の夢が現実になった。20周年を迎えた令和最初の日本タイトルで、完全Vのツアー初V。翌週に初の全米オープンを控えたプロ5年目の26歳が、また新たに大きな夢をつかんで歓喜した。
2位と3打差の単独首位から出た最終日、最終組で争った同級生は「ここぞというときナイスなプレーをするのが今平周吾」。
ここぞでやっぱり周吾は来た。
15番パー5(615ヤード)。
今平が、6メートルのイーグルチャンスを迎えた。
「外せと思うと貧しい心になってしまう。絶対に入れてくれと思うようにした」。
だが、いざ決められと「余計なことしてくれる!」。火が付いた。「自分も絶対入れてやろうと思った」。2メートルのバーディを入れ返した。再び4打のリードを持って宍戸の難所に入った。
距離が長く、池越えの17番パー4。
第1打をラフに入れたら、なぜか隣のキャディが安堵した。
清水重憲さんは、男女合わせて38勝を支えたスゴ腕。
「僕のジャッジにほとんど反対される」。
「…意味なく攻めたがるからやないか!」。
ラフならそれも出来ないから、むしろラフがいいとこの日も清水さんには何度も言われた。
15番を1Wで左隣の17番まで曲げたのは、前日の第3ラウンド。
「頼む、今日はスプーンで打ってくれ」と、清水さん。
気色ばむ堀川。
「そんな固いマネジメントで行くんスか!?」。
清水さんが初めて堀川と組んだのは、2年前のこの大会である。
刻むことを潔しとせず、難コースでむやみに無茶する堀川に呆れた。
「とにかくゴルフが荒かった」という。
「今まで見たシード選手で一番下手や」と、本人にもはっきり言った。
「トッププロなら普通にやっていることが、彼にはできなかった」(清水さん)。
・120ヤードを2ピン以内に打つ。
・アプローチで距離感を出す
・パットでタッチを合わせる。
3つの課題を与えて、意識改革に乗り出した。
「清水さんにはコーチかっていうくらい、何から何まで教わるようになった」(堀川)。
この日も、「刻むのは逃げじゃない。バーディ獲るため刻む」と再三言われて渋々でも、第1打で3Wを持って安全に、3打目勝負で周吾に隙を与えず済んだ。
組んで3年目の今大会で、成長した姿を見せられた。
「小学生の頃、周吾は雲の上の存在でしたけど、今は絶対こいつに勝つぞ、と。気持ち的にも負けていない」。同級生の賞金王に日本タイトル獲りでは先んじムチムチの胸を張った。
プロ転向時の体重71キロから、14キロ増。鍛えて、食べてスイングも変え、15ヤード飛距離を伸ばして、それでも昨季の平均281.5ヤード(80位)はけして飛ぶほうではない。でも、分厚い胸筋も「見掛け倒し」と言って、以前ほどからかわれることもなくなった。
この日は8番で、11メートルをねじ込むなど「自分の長所を上げるとすれば、ライン読み。パットは誰にも負けない自信がある」。
今週の平均パット1位と、数字が自負を裏付ける。
ジュニアのころから試合や合宿で親しみ、回り慣れた宍戸。
プロ5年で心技体を揃えて親身のキャディやコースに恩返しだ。
高校時代に通ったスクールではスコアを付けず、まずゴルフを楽しむ心を養い「それが今に生きている」という。
ピンチもチャンスも、笑顔の未来夢(みくむ)。
先週初めに全米オープン(6月13-16日、ペブルビーチ)の出場権をとったばかり。この日9日中に、慌ただしく発つ予定だった。
しかし、V会見を終えたころには17時をとっくに回って「まさかこんなことになるとは。いい意味の誤算ですね」。今晩19時発の飛行機に乗り遅れて「明日出直しです」と、やっぱり笑っていた。
5年シードのこの1勝で、全英オープンの切符も得るなどこの2週間で、次々と夢がかなって「急に進みすぎている。少し冷静にならないと!」。
父命名のキラキラネームは「文字通り”未来に夢を”」。
本人も戸惑うほど、その名を裏切らない活躍ぶりである。