Toshi Izawa 2003

2003年 ツアープレーヤーNO.1
伊沢利光

親しい人でさえ、そのシーンに目を見張った。1年8ヶ月ぶりの優勝インタビュー。「ここ1年半以上も勝てなくて・・・」そこまでは、笑顔で話していた伊沢の声が、ふいに途切れた。顔をゆがめ、右手で口元を覆った。こみあげてくる涙。「・・・今回は、江連君のおかげで・・・」。懸命にこらえて、話を続けようとするが、裏返ってしまって声にならない。語尾もあいまいに、「今日は、たくさんの応援をほんとうにありがとうございました」とギャラリーへの感謝の言葉で締めるのが、精一杯だった。
思いがけない伊沢の涙に、18番グリーンにお祝いに駆けつけた仲間たちももらい泣きだ。
マネージャーの浮世憲冶さんが赤い目をしてしみじみと言った。

「いつものんびり、何も気にしていないように見えるけど、それはうわべだけ。勝てない間のプレッシャーやつらさ、苦しみは押し隠し、顔で笑っていつも心では泣いていたんだと思うんですよ・・・」。
賞金王として頂点に立ちながら、昨シーズンはついに1勝もできなかった。
「まだ勝てないのか?」「いったい、いつ勝てるのか」自身への疑問と、周囲の期待。それらに応えようと懸命に練習を積むのだが、結果が出ない。

一昨年前、賞金王になったときは、「80%の自信と10%の不安」が入り混じっていた。「今のままのスイングでほんとうにいいのか?」自問自答し、翌年2002年はその10%の不安を埋めようと、自分なりにスイング改造に取り組んできた。しかし、思うように結果が出ないことで、「何がなんだかわからなくなってしまった」と、振り返る。
「ここまで頑張っているのになんで・・・」一時は、ついにその練習にも身が入らなくなって、ドライブや昼寝や、ゴルフ以外のことで気をまぎらわそうとしたこともあった。

「誰か、信頼できる人に見てもらいたい・・・」そう痛切に思ったとき、浮かんだのがコーチの江連忠だった。昨年12月、江連は「いずれは、マスターズで勝てるスイングにしていきましょう」と伊沢に言った。
伊沢は、「すべて任せるから、よろしく頼むよ」と返した。それから、二人三脚が始まった。
まず2人が目指したのは、どんな球筋でも打ち分けられるスイング。そのために、アドレスをオープンスタンスからスクエア、クローズ目に変え、従来のフェード一辺倒からドローも打てるスイング改造に踏み切ったのだった。
「・・・でも、完成は早くても来年以降だと思っていた」と伊沢。それだけに、わずか6ヶ月で結果を出してくれた江連には、感謝せずにいられない。

「彼を信じてやってきて、ほんとうに良かった。一人でやっていたときは不安ばかりだったけれど、今は彼がいてくれることで、とても安心できる。彼にはほんとうにありがとうと言いたい」それが涙の優勝インタビューで、言葉にならなかった部分だった。

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