遅れてきた23歳が、この上ない称号を手に入れた。初優勝はおろか、まだ初シードもなかった選手が、今季のツアープレーヤーNO.1の座についた。歓喜の瞬間は「頭が真っ白」。でも涙は出なかった。むしろ「最後はシビれすぎて笑っちゃって」。1打差で迎えた18番は5メートルのバーディチャンスも「入れてやろう」とかっこよく、ウィニングパットで締めるつもりが「あまりにもショートしすぎて笑えてきた」と本人はゲラゲラと、大笑いで大号泣の両親を抱きしめた。
小平をよく知る人なら誰もが言う。「思いやりがあって優しい子」。祝福の胴上げに駆けつけた大勢の友人が、何よりその人柄を物語る。いつもニコニコと人懐こい笑顔が反面、一見頼りなさそうにも見えるが「でも実は1本芯が通っている子でもある」。大混戦の最終日は、めまぐるしくリーダーボードが入れ替わる中で、小平も幾度も試練を迎えた。
最初の6ホールで4つのバーディも、直後の7番でダブルボギーに「イライラしたり、不安になったり」。極度の緊張の中で、揺れ動く思いも徹底したポーカーフェイスは「人前で弱さを見せるのは絶対に嫌だから」。今年から、パー5になった10番でイーグルでも「ここは自分の中ではパー4なので」と、派手なガッツポーズもない。プレー中は淡々と、出来るだけ喜怒哀楽をひた隠しにして歩くのは、相手に心を悟らせないためでもある。
自身3度目の最終日最終組は、前回の日本プロでの経験を生かして「今日は自分のプレーに徹することが出来た」。この日は9000人を超える大観衆も、小平の初優勝を願う歓声はひときわ多くて、アマチュア時代の所属コースの鷹ゴルフ倶楽部の方々が、サプライズで用意してくださった「GO!小平」と描かれた手作りのプラカードも、「あれはちょっと恥ずかしかった」と内心は照れながらも「僕はギャラリーが多い中でやるほど燃えるので」と、むしろ力に。
激しい競り合いも、難しいホールが集中する終盤には、ゲームの形勢が見えつつあった。ジリジリと上位が脱落していく中で、ついに韓国のS・K・ホとタイのアフィバーンラトと三つ巴の様相も、決着をつけたのは因縁の17番だった。池越えのパー4は、難易度1位のホールで池につかまりダブルボギーを打ったのは、大会初日。最終日もまた左の深いラフに打ち込んだが「勝つつもりだったので。刻む気はなかった」と果敢に、「初日と同じような状況から今日は凄く良いショットが打てた」と、宍戸にリベンジ。
9番アイアンを握った165ヤードの2打目はピン奥10メートルに乗せた。さらに「上から凄いフック」は2年前に、これまたほとんど同じ状況からみすみす3パットを打ったのは、このときも藤田寛之と最終日に同組で回った2011年大会。
当時は、みごとに打ちのめされたコースにも打ち克ち、成長した姿をベテランの賞金王にも見せられた。ぴったりと、距離を合わせて堅実なパーセーブで首位を守ると、1打差で逃げ切った。
ツアーに吹き荒れる20代旋風にも、ようやく胸を張って加われる。昨年の今大会を制した藤本佳則も、中学からの仲良しで、同い年の薗田俊輔も、デビューから5戦目の初優勝はJGTO発足後としては、当時の最速タイ記録だった。仲間の快挙に「あいつらに出来て、自分に出来ないことはない」と励みにしながら、しかし自分はデビューから3年たってもシード権さえ取れずに苦しんだ。
2010年のチャレンジトーナメントで、史上初のアマ制覇という華々しい戦績も、その年のQTはファーストステージから地道に勝ち上がっていくしかなく、さらに11年と再三の挑戦も、いずれも翌年のシード権には及ばず、12年のファイナルQTランク24位の資格で迎えた今季はまさに、3度目の正直だった。
「もう絶対にQTには戻りたくない」。そう誓った今季、開幕に備えて炭水化物を抜くダイエットで、80キロの体重を7キロ減。体作りにも余念がなく、毎日5キロのランニングも欠かさなかった。周囲も認める精度の高いショットは飛距離もぐんと伸びて、飛んで曲がらないことを示す部門別ランキングの「トータルドライビング」は先週まで1位。
苦手を自認するパッティングも練習場で、ついドライバーを握りたくなるのをぐっと堪える。飽きがこないよう工夫を凝らしたゲーム感覚のパット練習で、弱点克服にも力を入れた。
地道な努力がいま実った。「遼くんや英樹は年下なのに、僕よりもずっと経験豊富で。まだまだ及ばないけど、これでちょっとは追いつけたかな」。母親の裕子さんにもよく話すのは、「QT出身の自分が活躍すれば、いまツアーを目指している同年代の子たちも、きっと頑張ろうと思ってくれる」。本人も認めるように、石川遼や松山英樹のような華やかさはないかもしれない。しかし「地味なんだけど、コツコツと上を目指して頑張っていく」。そんな姿勢に勇気をもらう子たちだって、きっと大勢いるはずだ。
まだ初シードすら持たなかった選手が手にしたツアープレーヤーNO.1の称号は、優勝賞金3000万円のほかにも5年シードに、8月のWGC「ブリヂストン招待」の出場権と、豪華な特典がついてくる。プレゼンターとして、その目録を手渡した青木功に「会場のファイアストーンは、とても長いコースだから。うちのめさるかもしれない」と言われて小平も神妙にうなずく。「でもそれも経験。若い人には必ず、さらに大きくなるきっかけの一つになる」と、肩を叩かれ武者震い。米ツアーの出場が夢だった。それをひとつ形にして目が輝く。「自分がどこまで通用するか分からない。でもとにかく当たって砕けろの精神で、力一杯頑張ってきます」。青木のエールに精一杯答えた。