佐藤信人は、ツアープレーヤーNO.1の称号に成長のあとを示した。
18番パー4。8アイアンで打った残り155ヤードの第2打が、手前の池を越え、ピン下9メートルに落ちて止まると、佐藤は専属キャディの小畑さんと思わず、顔を見合わせニッコリ。
「さすがに…やっちゃいましたね」(小畑さん)
「さすがに…やっちゃったよ」(佐藤)
18番グリーンへと続く花道で、信頼できる相棒と、ひそかに、前祝いだ。
難なく2パットで決めて、通算20アンダーは2位と6打差。大会レコードを更新する、圧勝だった。
年間4勝を挙げ、賞金王争いを演じた一昨年前。佐藤は優勝して、感想を聞かれるたびに、こんな言葉を繰り返したものだった。「いや、今回はほんと、運だけで…」「僕なんかが勝ってしまって、本当にいいのかな、と…」 謙遜ではなく、本気で、そう思いこんでいる様子は、微笑ましくもあり、また少し、頼りなげでもあった。
「あのときは、勢いだけで勝っていたような、ものだったから…」
優勝インタビューで、そう、当時を振り返ったあと、佐藤は、きっぱりと、言い切った。「今回は、ゴルフの内容、メンタル面。すべてを総合してほぼ完璧に近い内容。これまでの、ベストラウンドといえると思います」
ボギーは、第2打をバンカーに打ち込んだ6番だけだった。 フェアウェーを外したのは、15番だけ。だが、そのたった1度のミスも、11メートルのパットを沈め、チャンスに変える強さを見せた。
クレバーな戦略も光った。グリーン左サイドが、奥の池にむかって傾斜している2番パー4の、この日のピン位置は、左から8ヤード、手前から22ヤード。ピンをデットに狙えば、池に転がりこむしかけがされていた。そろって、ワナにはまった久保谷、谷口を尻目に、佐藤は確実にグリーン真中を狙い、7メートルのパットをねじこむ。
13番は、6メートルを沈めて4打差。「勝てるかな…」優勝を意識しはじめたのも、このころだ。だが、「まだ、上がりホールでひと波乱ある」と警戒は緩めず、容赦なく、バーディを積み上げていった。
「ものすごく素晴らしいショットはなかったかもしれない。でも、ミスヒットもなく、幅にしっかり飛んでいた。最後まで、落ち着いて、対処もできた。満足度の、かなり高いゴルフ」自らの成長のあとを、確かに感じながら、堂々とつかみとったツアープレーヤーNO.1 の称号。「一歩前に、進めた感じがする」
冷静にゲームを進めてきた男が、最後に出したガッツポーズは、自信に満ち溢れていた。